太陽みたいなキミだから
 考えていたらむなしくなった。
 帰ろう。塾の宿題も自力で頑張るしかない。
 屋上にはもう行けないけど……もともと違う世界の人なんだ。関わらない方が自然。
 改札口に向かって方向転換したら――。

「芽衣!」

 エージ先輩の声が聞こえてきた。

 慌てて振り返ると、時計台のすぐ横にエージ先輩の姿が見えた。
 いつも通り制服のシャツ姿。こんなに暑いのに汗ひとつかいていない。相変わらずさわやかな笑顔でこっちに手を振っている。

 あれ……? ついさっきまでそっちの方向を見ていたのに、エージ先輩はいなかったはず。
 いつからそこにいたんだろう。

「先輩……」

「なんでそんな驚いた顔してるの」

「だって、もう来ないのかと思って……」

「あはは、そんなわけないでしょ? オレが芽衣とデートしたいって誘ったんだし。遅れてごめんね」

 エージ先輩はその手をわたしの頭に伸ばした。一瞬撫でられるのかと思ったけど、先輩の手はそのまま引っ込む。
 その代わりに耳元で「今日の芽衣、かわいいね」なんてつぶやいて。
 耳から全身までがカッと火照ってしまう。
 近づきそうで近づかない。そういうよくわからない距離感が、余計にわたしの心をドギマギさせる。

「あ、の、なんで制服なんですか」

「ちょっと用事があって」

「じゃあ……なんで駅前なんですか?」

「ふっふっふ、それはねー……行ってみてのお楽しみ」

 エージ先輩はそう言うと、「あっちだよ」と指さしながら歩き出した。わたしもそんな彼について歩く。
 目的地は、駅からほんのちょっと歩いたところだった。
 足を止めたエージ先輩の背中ごしに建物を見ると、そこは紗枝と美優が話していたゲーセンだったのだ。
 
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