太陽みたいなキミだから
 こんなにすがすがしい気持ちは久しぶりだった。
 いつもテストが終わるたびに「なんでもっとできなかったんだろう」って自己嫌悪。
 テストが返ってきた日は、予想通りの点数に、心の中はどんより曇り空だ。
 久しぶり……ううん、初めて、自分で納得のいく点数がとれた。

「エージ先輩はここでなにしてたんですか?」

「オレ? オレは空を見てたんだ。こうやって」

 そう言って、ごろんと寝っ転がる。まるで子供みたいな行動にクスッと笑ってしまった。

「すごくいい天気だから、見ておきたくて。芽衣もやってみなよ、きれいだよ」

 え、わたしも⁉
 コンクリートの上に直接寝るなんてこと、いつもだったら絶対にしない。でも、先輩がそう言うなら……。
 わたしはちょっぴりドキドキしながら思い切って寝転んでみた。

「わ……」

 階段室から見える空は雲一つない快晴で、まるでどこまでも続く真っ青なキャンバスみたいだった。
 見ていると吸い込まれそうになる。深く、遠く、わたしの心をさらっていく。
 この景色を――。

「テストがよかったら、絵が描ける?」

 エージ先輩のその言葉で一気に現実に引き戻された。空までの距離がぐんっと遠くなる。
 いけない……またわたしは思ってはいけないことを思いそうになった。
 わたしはそっと、青空から目を逸らす。

「それは……わかりません」

 お母さんは、許してくれるだろうか。美術部に戻ることを。絵を描くことを。……わからない。
 
「なんで先輩はわたしに絵を描かせたいんですか?」

 初めて会ったとき、『オレの絵を描いてよ』って言ってきた。
 二人でゲーセンに行ったときも『絵はもう、描かないの?』って聞いてきた。
 なんでわたしに絵を描いてほしいって思うのか。この前会ったばかりの人なのに。
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