太陽みたいなキミだから
 笑顔だった先輩がふと真顔になった。
 意識したことなかったけど、こうしてまじまじと見てみると、エージ先輩って色素が薄いんだ。
 茶色い瞳。透き通りそうなほど白い肌。長いまつ毛は風に揺れてキラキラしている。
 いつも明るく笑っているからわからないけど、真顔だとはかなくて、そして……きれい。

「芽衣の絵が好きだから。それに……――芽衣が絵を描きたがっているから」

「そんなこと……」

 そう言われてドキッとした。
 ――図星。悔しいけど、当たっている。
 エージ先輩と出かけたこと、樋口さんと会話したこと……そういう、今までの生活では知りえなかった新しい世界に、感情が揺れ動く。
 この感情を筆に乗せて絵を描けたらどんなにいいか。きっと今までとはちがう絵が描けるはず、そう思うのだ。

「描きたいんだったら、描こうよ」

 先輩の言葉がいちいち胸に響いて、苦しい。
 描きたいんだったら、描こう。それはすごく当たり前のことだ。当たり前で……なにも難しいことじゃないはずなんだ。
 わたしは、手にしていた紙を見た。

 もし……もしこのテストをお母さんに見せたら……。もう一度絵を描くことを許してくれるだろうか。
 ぽっと小さな明かりが灯るように、胸の中に『期待』が生まれる。
 どうなるかはわからない。けど、でも……試してみたい。

 わたしがパッと顔を上げると、先輩がコクリと頷いた。
< 53 / 95 >

この作品をシェア

pagetop