太陽みたいなキミだから


 お母さんと対面するときは、いつも緊張する。
 なにかしらイライラしているお母さんの機嫌をこれ以上損ねないように、怒られないように、慎重に言葉を選ぶ。
 こんなとき、お兄ちゃんがいたらよかったのに。何度そう思ったことか。

 お母さんの大事な大事なお兄ちゃん。家族の緩和剤のような人。将来はお父さんの跡を継いで医者になるはずだった。
 それなのに、大学に行ってすぐ、「世界を見たいんだ」と言ってバックパッカーになってしまった。
 今は連絡もろくによこさず海外を飛び回っているらしい。
 お兄ちゃんがいたら……お母さんはイライラしていなかったかもしれないのに。
 お兄ちゃんがいたら……わたしは絵を続けられていたかもしれないのに。

 いままでそうやって、全部のことをお兄ちゃんのせいにしてきた。
 最初から諦めていたんだ。
 小さなきっかけが、もしかしたら今までもあったかもしれないのに――。

「……これ」

 家に帰るなり、キッチンで夕食の準備をしているお母さんに向かってテストを差し出した。
 お母さんは水を止め、手をふき、無言のままテスト用紙をひったくる。
 なんて言われるんだろう。期待半分、そしてもう半分は恐怖だ。
 テストを見られる中、時計の針だけがチッチと音を鳴らす。
 いたたまれなくなって、目を伏せこぶしをぎゅっと握った。

「ふぅん……芽衣にしては頑張ったじゃない」

「…………!」

 ほめられた……!
 聞き慣れないお母さんからの言葉にパッと顔をあげる。久しぶりに笑顔が見られると思ったんだ。
 だけど……目に入ったお母さんの顔は、テスト用紙を眺める難しい顔だった。

「……けど、このくらいじゃ安心とはいえないわね」

 
 

 
< 54 / 95 >

この作品をシェア

pagetop