太陽みたいなキミだから
「……怒るよ」

「っ……」

 エージ先輩が眉を寄せた。珍しく、空気がピリッと張り詰める。
 いつも、わたしがどんなに泣き言を言っても怒らなかったエージ先輩が……怒っている。

「なんでエージ先輩が怒るの。わたしが絵を描くのも描かないのも、ここから飛び降りるのも飛び降りないのも、全部エージ先輩には関係ないじゃん」

「そんなこと……!」

 勢いよく言いかけた言葉は、しりすぼみで消えていく。
 ほらね、エージ先輩にはわたしを引き留める理由なんてない。
 先輩は悔しそうに顔をゆがめた。
 
 ぽつ、ぽつ、と降ってきた雨が頬をぬらす。黒くなった雲がわたしの心にも入り込んでいく。
 頭が重い、胸が苦しい。

 ……もう、止まらない。

「芽衣、聞いて。オレは……」

「……力づくで引き留めようともしないくせに……いつも口ばっかり!」

 あ……――。

 わたし……いま、なんてことを……。
 言ってしまって後悔した。
 エージ先輩の顔が、今にも泣きだしそうだったからだ。

「せん、ぱい……わたし……」

 ――ザァッ。

 急に激しく振り出した雨が、視界をうばっていく。
 必死に顔をぬぐうけど、先輩の表情はもう見えない。しだいに体も冷えてきて……。

 くらっ。



 ――わたしは意識を手放した。





『ずっと、芽衣に会いたかったんだ』

 その声は……エージ先輩?

 ごめんね、先輩。
 わたし……わたし……なんでひどいこと言っちゃたんだろう。
 先輩にあんな顔させたくなかったのに……。

『芽衣はオレの希望……太陽なんだよ』

 そんなわけない。わたしはなんにもない。なんにもないんだよ、先輩……。
 
 
 

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