太陽みたいなキミだから
 どろどろとしたものが、胸の奥から込み上げてくる。
 ――わたし、なんのために生きてるんだろう。

 一度そう思ったらどんどん惨めになってきて。悔しくて、悲しくて。

 ……あ、ダメだ。吐きそう。

 フェンスに思い切りもたれかかって堪える。はるか彼方にあるはずの地上が、ぐんと近づいた感覚になった。
 このまま……このまま落ちてしまったら楽になるのかな。

 そう、なにも「死」はそれほど特別なことじゃない。五年前だってここから飛び降りた生徒がいたみたいだし、去年だって病気で亡くなった生徒がいた。紗枝たちとその人のために折り鶴を折ったことも覚えている。
 「死」はどこにである、ありふれたふつうのこと。今さらわたし一人いなくなったところで、別に――。
 
「――おーい」

 その時、天から声が聞こえてきてハッとした。でもここは屋上だ……ありえない。

 もしかして、天使?
 その割には声の調子が軽すぎる。
 虚ろな目で見上げると、目が覚めるようなオレンジ色が目に入った。
 それはまるで、太陽みたいな……――。

「あ、なんだ。フツーに体調悪い?」

 ピントが合った瞬間わたしの目の前に現れたのは、太陽でもなく天使でもなく、紛れもなく人間の男の人だった。

「……っ!?」

 驚いてよろけた拍子に尻もちをついた。
 腕があたって、フェンスがガチャンと音を鳴らす。
 だって、わたしの他に人がいるなんて、思ってもみなかったから。
 ううん、ドアを開けた時は確実に誰もいなかったはずなんだ。
 じゃあこの人は一体どこから現れたんだろう?

「ここ、オレのお気に入りの場所なんだよね。もし君が自殺でもしようもんなら、止めなきゃと思って――……って、大丈夫?」

 早口に喋っていた彼は、最後に取ってつけたように「大丈夫?」と言った。
 その割に手を差し伸べてこないところを見ると、わたしのことを心配しているのかしていないのか、よくわからない。

 ラフに着崩した冬服用の長袖シャツ。綺麗に染まったオレンジの髪。いたずらっぽいアーモンド型の目。真っ白い肌。
 こんな目立つ人、うちの学校にいたっけ。
 って言っても八クラスもあるマンモス校だから、知らなくても無理はないかもしれないけど。

 いつの間にか吐き気はおさまっていた。
 こくんと頷くと、彼は「そっか、よかった」と言って笑った。

 笑うと小さな八重歯が見えて、まるで子犬みたいだと思った。
< 6 / 95 >

この作品をシェア

pagetop