太陽みたいなキミだから



 エージ先輩に会える気がする。
 そんな予感の通り、屋上にはエージ先輩の姿があった。
 いつも通り、なにも変わらない。相変わらず長袖の制服を着て、勢いよくドアを開けたわたしに微笑みかけている。
 その顔が見たかったんだ。

 わたしはゆっくり歩いて先輩の隣に立った。
 空には七色がまだうっすらと残っている。その柔らかい光がわたしの背中を押す。

「ごめんなさい……あんなこと言って」

 先輩はそんなわたしを咎めることなく、

「話してよ、芽衣のこと」

と優しく言った。

 わたしのこと……。

 『誰もわたしに興味ない』そう思っていたから、自分のことを話すのは苦手だった。
 だけどエージ先輩はちがうってわかったから……もう怖くない。
 わたしは小さく口を開いた。

「……わたしには、お兄ちゃんがいるんです。年はちょっと離れてて……今二十三歳の。とっても優秀な人で、医者として働く父の跡を継ぐのは彼だって、お母さんはよく言っていました」

 ぽつりぽつり、昔のことを思い出いながら話していく。

「その言葉通り、順調に医学部に進学して、あとはもう医者になるだけだったんですけど……いきなり大学を中退して海外に行ってしまったんです」

 世界にはもっと困っている人がたくさんいるはずだって。
 本当は医者になりたくなかったのか、お母さんに言われて進学を決めただけだったのか……今となってはわからないけれど。

「そしたら今度はわたしに『医者になれ』って。おかしいですよね、そんなの。わたしのことを『お兄ちゃんと比べると全然だめね』って言ってきたのに。そんないきなり言われてできるわけないじゃないですか」

 お兄ちゃんからの電話を切った後のお母さんの顔は、よく覚えている。
 ふるふる震えたまましばらく遠くを見ていたかと思うと、わたしに向き直って、不自然な笑顔で「ねぇ芽衣ちゃん?」と言ってきた。
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