太陽みたいなキミだから
「芽衣、いい質問だね。たしかに入り口は閉まってるんだけど……ここが開いてるんだなー」

 だけどエージ先輩は、ある一か所の窓をガラリと開けて見せた。
 ……ウソでしょ⁉ 
 信じられない思いでエージ先輩をじっと見るけど、先輩はひょいっとジャンプして窓から一階にすんなり入ってしまった。

「ほら、芽衣もおいで。そこの石を台にしたら簡単だよ」

「だ、大丈夫なんですか?」

 学校に侵入なんてして。
 『いい子』として生きてきて十数年。当然、学校に不法侵入なんてしたことはない。
 もし誰かに見つかったら……考えただけでゾッとする。先輩は受験だって控えているのに。

「へーきへーき。誰もいないから」

「…………」

 不思議。先輩がそう言うなら、本当に平気な気がしてくる。
 わたしは恐る恐る窓のふちに手をかけた。




 夜の屋上は、当たり前だけどしんと静まり返っていて、どこか神秘的だ。
 家や街灯の明かりがぼんやりと広がっていて、それがとてもきれい。こんな景色があるんだな。

 それにしても、ここまでたどり着くのは大変だった。
 先輩の言う通り人の気配は全くなかった……んだけど、それはそれで「肝試し」のような気持になって妙に緊張感があった。

 こんなことしなくても、学校の外でふつうに先輩に会えたらいいのに。
 たとえば……図書館で。受験勉強をする先輩のかたわらで、わたしも勉強をしたりして。
 帰りに近くのカフェに寄ってもいいかもしれない。
 気晴らしに映画とかもよさそうだ。先輩はわざとホラー映画を選んだりしそうだな。
 楽し気な空想ならどんどん膨らむ。
 でも問題は、どうやって先輩を誘うかということだった。
 
 わたしはエージ先輩の連絡先を知らない。
 夏休みに入ってしまった今、会う約束ができないのだ。
 その問題を解決する方法は……先輩に連絡先を聞くこと、ただ一つ。
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