太陽みたいなキミだから
「体調悪いなら保健室行った方がいいよ。それとも……これ、返してほしい?」

 そう言って、彼は手に持っていたなにかをわたしの目の前でひらひら揺らした。
 それは間違いなく、わたしがさっき捨てたはずの絵のかけらだった。

「な、なんでそれを……!?」

 慌てて手を伸ばすけど、届く前に彼はぐんと背伸びをする。

「ちょっと! それ、返して……!」

「あ、返してほしいんだ? てっきり破り捨てたのかと思ったけど」

 彼の言葉にわたしの手はピタリと止まる。
 そうだ。破り捨てた……捨てたんだ。それなのに「返して」だなんて、わたしはなにを……。

 きゅっと唇をかんで彼をじっと睨んだ。
 もうそうするしか自分の気持ちを伝える術がなかったんだ。
 だけど彼はそんなわたしの態度を咎めるどころか、優しくはにかんで。

「……これ、絵だよね。綺麗なオレンジ色したひまわりだ」

 ――ひまわりだ。
 
 こんな切れ端なのに、ひまわりだってわかってくれた。
 それが嬉しくて。
 緩みそうになる唇をもう一度強く引き結ぶ。
 嬉しいなんて思っちゃダメだ。そんな資格、わたしにはないから。

「ちがう。ひまわりだったもの(・・・・・)……です」

 視界の端に緑色のバッヂが見えた。この人、三年生……先輩、だったんだ。

 彼は「ふぅん」と呟いて切れ端をまじまじと見つめた。
 なんだか審査されてるみたいで居心地が悪くなる。

「ね、時間ある? 体調悪くなければ、だけど」

 返してくれると思ったのに、彼はそれを自分のポケットに入れて、くいっと顎で後ろを示した。
 つられて視線を動かすと、そこにあるのはわたしが出てきたドアがある、階段室だった。
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