太陽みたいなキミだから
「見てください!」

 そう言って、早速持ってきた手さげバッグの中に手を突っ込んだ。
 中から取り出したのは、絵を描くための道具――画材だった。
 油絵具に溶き油、絵筆、パレット、もちろんキャンバスも。
 もともと家にあった画材はすべて捨てられていたので、夏休み中に買いまわったんだ。
 もちろん家に置いておくことはできないから、美術室にこっそり隠していた。

『絵を描きたい』なんて、直接お母さんには言えそうもない。
 だからまず絵を描いて、それを見せようと思う。
 今度こそ『そんなもの』と思われないような、すごい大作を。

「わたしがどれだけ本気か、ちゃんと見てもらおうと思って」

 久しぶりに画材を揃える瞬間はやっぱり胸がおどった。
 揃えたら揃えたらで早く描きたくてウズウズしているけど、家では描けないし、文化祭が終わったら描こうと思っている。
 ここ、屋上で。
 そのときはエージ先輩に見守っていてほしい。

「芽衣、すごく明るくなったね」

「そう、ですかね」

 なんだか照れくさくって鼻の頭をかく。
 わたしが明るくなったとしたら、それはきっとエージ先輩のおかげ。
 行きたかった場所に連れて行ってくれたり、樋口さんと話すきっかけをくれたり、花火を見て刺激をくれたり……。
 エージ先輩がいてくれたから、わたしは前向きになれたんだ。

「芽衣、あのさ……話があるんだけど」

「うん? なんですか?」

 わたしはエージ先輩をじっと見た。
 太陽の光を受けて、オレンジの髪が輝いている。
 白い肌は、今日は一段と透明感があって、いまにも消えてしまいそうなほどはかない。
 話がある、と言うわりに、エージ先輩はじっと黙ったまま固まってしまった。
 なにか言いにくいことなんだろうか。
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