太陽みたいなキミだから
 なのにわたしの口は勝手に動いていた。
 部長の口がゆっくり開く。スローモーションみたいに見えるのに、わたしの心臓はバクバクと異常な速さで動いている。






「――伊吹瑛士(いぶきえいじ)ってやつだよ。明るくて、優しくて、すごくいいやつだったんだけど……――」







 イブキエージ。

 イブキエージ。

 イブキエージ。
 
 その名前を聞いた瞬間、サッと血の気が引いていくのがわかった。
 視界がぐにゃっとゆがむ。自分がいま、立っているのか座っているのかもわからない。
 部長、なに言ってるの? 瑛士……エイジって。
 そうだ、名前がたまたま一緒なだけで……エージ先輩には関係ない。そうにちがいない。
 だってありえない。そんなわけない。そんなことがあるわけ……。

 でも――。

 そうやって思えば思うほど、頭の中に次々といろんなシーンが浮かんでくる。

 ――違和感は、最初に会ったときからあった。

 気分が悪いわたしを「大丈夫?」と心配しながらも、手を差し伸べようとはしなかった。
 それだけじゃない。わたしが飛び降りる素振りを見せても、なだめるだけで引っ張って止めようとしなかった。
 触らないんだ……わたしに。
 屋上に行ったら、いつも必ずわたしを出迎えてくれた先輩。不思議なことに、校内で見かけたことは、一度もない。
 自分のことは「ひみつ」ばかりで、聞いてもはぐらかして。
 そういえば、いつかの放課後にサッカー部を寂しそうな顔で見ていたっけ。
 服装も、結局いつも冬用の長袖シャツ姿だった。外はこんなに暑いのに、汗をかいているのを見たことはない。
 それに、片桐部長が屋上にいるわたしを目撃したときも、エージ先輩を見かけていないようだった。
 
 そのどれもが、パズルのピースをはめるみたいに繋がっていく。
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