太陽みたいなキミだから
エピローグ
――でね、自分でも本当にゲンキンだなぁって思うんですけど、お母さんに『絵を描きたい』って宣言したら、なんだかスッキリしちゃって。
美術科のある高校に志望校自体は変えたんですけど、勉強も前向きにやろうって気持ちにもなったんです。
ほら、せっかくエージ先輩に教えてもらって、塾にもついていけるようになったことだしもったいないかなって。
ね、ゲンキンでしょう? あんなに嫌がってたのにね。
結局、気持ちを言えない自分自身に腹が立って、モヤモヤして、なにもかもが嫌になってたんだと思うんです。
でも今は、いろんな選択肢があるってことは、きっと悪いことじゃないって思います。
そうだ、とも――樋口さんとは最近になってすごく仲良くなりました。
あっ、そう思ってるのはわたしだけかもしれないけど。
でも休日に会う約束をしてるんだから、じゅうぶん仲良しですよね?
彼女のファッションはいつも独創的で、わたしの創作意欲に火をつけるんです。
なんてこと言ったら『やめて』とか言って怒られそうだけど。
美術部にも戻りました。黙って辞めたからみんな怒ってるかと思ったけど、温かく迎え入れてくれて。
部長が言ってた『杉咲のことをみんな心配してる』って言葉……本当だったんだなぁって。
思えばわたし、いろんなことが見えてなかったんですね。わたしのことを大事に思ってくれる人はいっぱいいたのに。
でも……そういうものに気づけてよかったです。
お母さんとは相変わらずですよ。相変わらず、なにをするのも『お兄ちゃん、お兄ちゃん』言ってるしね。
今度は絵に関しても厳しく言ってくるから、前よりもっと面倒くさいかなぁ……なんて。
あ……でもね……わたしのことを『見て』くれるようになりました。
すごくささいなことなんですけど、なにかを決めるときに『芽衣は?』って聞いてくれるようになったんです。
だからね、今は、家の中も少し息がしやすい。
ねぇ、そっちは今どんな感じですか? エージ先輩」
目の前の、真新しいお墓に向かって語りかける。
当たり前だけど向こうからはなんの返事もない。
凍える両手にハーッと息を吐いて、こすり合わせた。
少し温まった手でお墓に積もった雪をそっと払い落とす。季節はもう、冬になっていた。
「先輩に、雪は似合わないかな」
クスッと笑ったら、口から白い息が漏れた。
エージ先輩の笑顔は、それだけで辺りがパァッと明るくなるような、そんなパワーがある。
どんな時も暖かく照らしてくれる、先輩はわたしの太陽だった。
「……もう行かなきゃ。今日、これからお母さんと画材を買いに行くんです。なんでも昔よくしてくれた知り合いの画材屋さんがいるとかで……ふふ、そう。最近はわたしよりお母さんの方が熱心なくらいなんですよ」
クスリと笑みをこぼして、おもむろに立ち上がる。
墓地の向こうには、見渡す限りの青空が広がっていた。
わたしは大きく深呼吸をして、胸いっぱいに冬の空気を吸い込んだ。
――ねぇ、エージ先輩。
わたしは今、わたしの人生を歩んでいるよ。
誰に何を言われても関係ない。わたしは絵を描き続ける。
大きなキャンバスに目の覚めるようなオレンジ色を載せて。
太陽みたいなひまわりを、描くんだ。
美術科のある高校に志望校自体は変えたんですけど、勉強も前向きにやろうって気持ちにもなったんです。
ほら、せっかくエージ先輩に教えてもらって、塾にもついていけるようになったことだしもったいないかなって。
ね、ゲンキンでしょう? あんなに嫌がってたのにね。
結局、気持ちを言えない自分自身に腹が立って、モヤモヤして、なにもかもが嫌になってたんだと思うんです。
でも今は、いろんな選択肢があるってことは、きっと悪いことじゃないって思います。
そうだ、とも――樋口さんとは最近になってすごく仲良くなりました。
あっ、そう思ってるのはわたしだけかもしれないけど。
でも休日に会う約束をしてるんだから、じゅうぶん仲良しですよね?
彼女のファッションはいつも独創的で、わたしの創作意欲に火をつけるんです。
なんてこと言ったら『やめて』とか言って怒られそうだけど。
美術部にも戻りました。黙って辞めたからみんな怒ってるかと思ったけど、温かく迎え入れてくれて。
部長が言ってた『杉咲のことをみんな心配してる』って言葉……本当だったんだなぁって。
思えばわたし、いろんなことが見えてなかったんですね。わたしのことを大事に思ってくれる人はいっぱいいたのに。
でも……そういうものに気づけてよかったです。
お母さんとは相変わらずですよ。相変わらず、なにをするのも『お兄ちゃん、お兄ちゃん』言ってるしね。
今度は絵に関しても厳しく言ってくるから、前よりもっと面倒くさいかなぁ……なんて。
あ……でもね……わたしのことを『見て』くれるようになりました。
すごくささいなことなんですけど、なにかを決めるときに『芽衣は?』って聞いてくれるようになったんです。
だからね、今は、家の中も少し息がしやすい。
ねぇ、そっちは今どんな感じですか? エージ先輩」
目の前の、真新しいお墓に向かって語りかける。
当たり前だけど向こうからはなんの返事もない。
凍える両手にハーッと息を吐いて、こすり合わせた。
少し温まった手でお墓に積もった雪をそっと払い落とす。季節はもう、冬になっていた。
「先輩に、雪は似合わないかな」
クスッと笑ったら、口から白い息が漏れた。
エージ先輩の笑顔は、それだけで辺りがパァッと明るくなるような、そんなパワーがある。
どんな時も暖かく照らしてくれる、先輩はわたしの太陽だった。
「……もう行かなきゃ。今日、これからお母さんと画材を買いに行くんです。なんでも昔よくしてくれた知り合いの画材屋さんがいるとかで……ふふ、そう。最近はわたしよりお母さんの方が熱心なくらいなんですよ」
クスリと笑みをこぼして、おもむろに立ち上がる。
墓地の向こうには、見渡す限りの青空が広がっていた。
わたしは大きく深呼吸をして、胸いっぱいに冬の空気を吸い込んだ。
――ねぇ、エージ先輩。
わたしは今、わたしの人生を歩んでいるよ。
誰に何を言われても関係ない。わたしは絵を描き続ける。
大きなキャンバスに目の覚めるようなオレンジ色を載せて。
太陽みたいなひまわりを、描くんだ。