イケメンの人気者と、ぼっちな私の秘めごと
人気者とぼっちの、とあるの夏の1ページ
午前零時。
静まり返った学校は何度来ても、うす気味悪い。
七月の肌にまとわりつくような空気も相まって体がとても重く感じた。
校門をくぐり、私は校舎の外をぐるりとまわりながら一階にある準備室へ向かう。
生ぬるい風が私の頬を撫でた。
じとりと汗がにじんでくる不快感に眉を寄せて首筋をぬぐえば、後ろから気の抜けた声をかけられる。
「那央。暑いんだろ、なんか飲む?」
「ちょっと、しーっ!」
「んぐ」
そこそこの声量で言うものだから私は湊の口を手で塞ぎ、あたりをきょろきょろと見まわす。人の気配がないことを確認して、はぁと脱力した。
「……湊、なんで大きな声出すのよっ!」
怒っている声音だけど、湊と違って私はもちろん小声だ。
顔を寄せて問い詰めれば、半眼になりムスッとした顔をする湊。
そんな顔をしてもイケメンなのだから世の中、本当に不公平というもので。
「誰もいないって。それより、お前が熱中症で倒れる方が俺は嫌だね」
「っ、あ、ありがとう。……とりあえず早く中に入っちゃおうよ」
「ん。そうだな」
窓の鍵を昼間のうちに開けておいたおかげで、準備室の窓は外からスムーズに開いた。
一階にあるといえど、準備室の窓は私の身長より少し高い。
窓枠に手をかけると、いつものように湊が私の腰に手を添えた。
「いくぞ」
「うん、いいよ」
湊に少し持ち上げてもらい、なんとか準備室の中に入る。
その際、窓枠に制服のスカートが引っかかってしまった。
一応下着が見えないようインナーパンツを履いていたから、実物は見えていないはずなのに湊は口笛を吹く。
「……ひゅー、ラッキー」
「なっ!」
大声で叫びたいのをグッとこらえて、無言で窓を閉めて鍵もかけると「悪かったって那央、マジで」と湊は笑っている。
鍵を開けないままでいると、本気で私が怒ったと思ったのか、コンコンと窓を叩き「那央?」と呼ばれた。
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