イケメンの人気者と、ぼっちな私の秘めごと
「──明日世界が終わってもいいくらい、嬉しい」

「や、やだよ。私はもっと生きたいんだけど」

 
 湊がきゅっと眉を寄せる。
 そして頭に軽くチョップをお見舞いされてしまった。


「いたっ!」

「例えだわバーカ」

「バカって言わないで! バカ!」

「うるせぇー」

「うるさくない! 両想いなんだから、もっと一緒にいたいと思うのは当然でしょっ」

「…………」


 目を見開いて数秒固まった後、湊は急にしゃがみ込んだ。なんだかとても(いそが)しい人だ。


「み、湊?」

「はぁぁぁぁぁぁぁ」


 またしても深いため息をついた湊。
 その長さに、むしろすごい肺活量に感心するというか。


「マジで、なんなんだよ……」

「え、な、なにが?」

「……俺が将来禿げても、私には関係なーいとか言ってたじゃねぇか」

「へ、私そんなこと言っ──」



『本気で忘れてたら、湊の髪の毛十本抜くところだった。よかったね、湊』
『よくねぇ。やめろよマジで! 将来、禿げたらどうすんだ』
『湊の将来なんて、私に関係ないしー』


 よくよく思い返してみれば、言ったかもしれない。


「……待って。だからあのあと、湊は機嫌が悪かったの?」

「…………そーだよ」



 ちょっぴり可愛い、と思ってしまったのは許してほしい。
 ふふっと笑えば、怒ったのかぷくりと頬を膨らませてそっぽを向く湊。


「湊? ほら、帰ろう」

「一人で帰れば」

「こんな夜中に、彼女を一人で帰らせるなんて最低なことしないよね?」


 ぴくっと肩を揺らした。
 ふむ、悪いとは思ってるんだ。
 私もしゃがみ込んで、目線を合わせながら「湊さーん?」と呼んでみる。


「カッコいい湊さーん。きゃー、世界一ステキー」

「……棒読みすぎ」

「バレた?」

「あぁもう……! ほら、帰るぞ那央」


 勢いよく立ち上がった湊は、私に手を差し出した。大きな手にそっと手を乗せれば、グイッと引っ張られる。


「那央、今日の昼さ一緒に食べようよ」

「え、嫌ですけど」

「なんで」

「湊と食べてたら、そこらじゅうの女子の視線で私、死ぬかもしれないよ」

「んな、大袈裟な」
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