イケメンの人気者と、ぼっちな私の秘めごと
「ねぇ、どっちの教室でやる?」


 後ろを着いてきているはずの湊に声をかけるも、返事がない。


「湊?」


 振りむけば、またしてもムスッとした顔の湊。

 な、なんで不服そうなの?
 訳がわからない。


「湊ってば。私と湊の教室、どっちでやる? そしてなんで不服そうなの」

「……別になんでもねーよ。那央の教室でいいんじゃね」

 
 そう言うと湊は大股で歩き出した。
 私は慌てて後を追う。


 初めて校舎に忍び込んだ夜は、先が見えない真っ暗な廊下がひどく不気味に見えて足がすくんでしまっていた。
 今は、まぁ怖いけれど慣れたためスムーズに歩けている。


「ほら」

「っと、ありがとう」


 
 湊からペットボトルを受け取り、喉を潤す。何気なく向かい側の校舎の窓ガラスを見ていると、ナニカが横切った気がした。


「いま、向かい側に何かいなかった?」

「そうか?」

「もう、ちゃんと見ててよ」

「わりー、わりー」


 半眼で湊を見れば、何食わぬ顔で私からペットボトルを奪い取りそのまま口をつけた。


「っ…………」

「ん? なんだよ」

「はぁぁぁぁ。……別に?」


 そういうところだ。
 イケメンは、人を勘違いさせるスキルまで持ってるんだから本当に手に負えない。
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