イケメンの人気者と、ぼっちな私の秘めごと
◆◆◆◆◆

 昼間の見慣れた教室も、夜は少し表情を変えている。
 日中はぽかぽかと気持ちがいい窓際の席は、今は月明かりによって冷たく妖しげな雰囲気に見えた。

 先に教室に入って自分の席に座ろうとすれば、湊がドカッと椅子に座った。
 ……私の席に、だ。


「湊っ、そこ私の席なんだけど」

「お前は前の席に座ればいいじゃん。ココ、今は俺の席だから」


 我が物顔で座る湊に、ため息をつきつつ。
 前の席の椅子を拝借して、私も座る。


「それにしても、……よく私の席わかったね?」

「あぁ、なんとなく」


 興味なさげに返事をしながら、湊はガサゴソとカバンを漁る。
 湊には私の席を一度も言ったことはない。
 クラスも違うし、別に興味もないと思っていたから。
 イケメンは勘まで鋭いのかと、感心する。


「おし。んじゃ、やるぞ」


 ひらがな五十音、『はい』と『いいえ』、そして鳥居のマークが描かれた紙を机に広げる。
 湊は躊躇せずに、十円玉に指を乗せた。


 私はと言うと少しだけ指を彷徨わせてから、意を決してえいやっと指を乗せる。
 これでこっくりさんをやる準備は万端だ。


「──あ」

「なっ、なに!?」

「いや、何を質問する? 俺、なんも考えてなかったわ」

「……わ、私も考えてなかった」


 顔を見合わせて、ふっと笑い合う。


「なんでもいいから、適当に聞いてみろよ」

「適当にって。うーん、じゃあ……こっくりさんこっくりさん。明日は──じゃなくてもう今日だよね、今日は抜き打ち小テストがありますか?」


 そう問いかければ、ぶっと湊に笑われた気がしたが、私は十円玉から目を離さないでいる。
 これは死活問題なのだ。
 抜き打ち小テストは心臓に悪い。
 せめて事前に告知をしてほしい切実に。……あ、それは抜き打ちじゃないか。
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