イケメンの人気者と、ぼっちな私の秘めごと
 なんて思っていれば、すぅと十円玉が動き出した。


「う、動いてるっ……!」

「おー。すげぇ」


 食い入るように十円玉を見ていれば、行き先は『はい』。


「そ、そんなぁ! 今日、小テストがあるの? ……終わった、もう学校行きたくない」

「バカか。事前にわかったんだから、覚悟を決めろ」

「なんの覚悟よ」

「0点」

「……頭脳明晰さんはいいよね、本当に!」

「まぁな」


 くっ、余裕綽々なのが本当に悔しい!



 ──と、その後も些細なことだったり、何個か質問するが十円玉は動かない。
 小テストのアレは嘘だったんじゃないかと思い始めた頃、うまく聞き取れないけれど歌声のようなものが聞こえた。

 男かも女かもわからない、反響してぐぐもった声。


「い、今、なにか声がしなかった……?」

「……した、な」

「やっぱり? ……ね、ねぇ湊。もう帰ろっか」

「──なに、怖いの? 那央」


 目を細めて、私を挑発するように言う湊。


「……別に? 湊が怖いんじゃないかなぁと思って、提案してあげただけですけど?」

「く、ははっ」


 耐えられないとばかりに、肩を震わせて笑いだした湊。
 カチンと来た。

 そう、頭にカチンと。


「こっくりさん、こっくりさん! 蒼井(あおい)湊の弱点を教えてください」


 私が湊の弱点を暴こうとしているのに、当の本人はまだ笑っている。
 自分でもバカなことを聞いているとは思ったけれど、驚くことに十円玉はゆっくりと動き出した。
 

「び……、じ……、ん。美人ってこと? な、なによそれ!」

「おー、よくわかってんじゃん。男は美人に弱いんだよ。覚えときな、いい子ちゃん」

「はいはい、最低っ」


 私は別に美人でもなければ、可愛いと言うわけでもない。至って平均的な容姿だ。
 人気者でイケメンな湊とこうして話しているだけでも、奇跡のようなもの。


 わかっているけれど、それでも……やっぱりチクリと胸が痛い。
 今度は私がムスッとした顔をすれば、湊はまたしても笑う。
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