イケメンの人気者と、ぼっちな私の秘めごと
「ははっ、タコみたいな顔すんなって。可愛すぎ」


 空いている片手で、ぶにっと両頬を挟まれた。


「むむむむ(なにすんの)!? むむっむ(離して)!」


 抗議をしてもその手は離れない。
 そればかりか、湊は爆弾を落とす。


「こっくりさん、こっくりさん。櫻井(さくらい)那央の好きな人は?」
 
「ちょ、ちょっとお!?」


 ──なんてことを聞いているの!?

 バクバクとありえないほど音を立てながら活動する心臓に、ぶわりと汗がふきでる。
 じぃっと十円玉を見つめるけれど、一向に動く気配はない。

 
 私自身も知りたかったような、今ここで全てをさらけ出したかったような。
 複雑な思いは一旦飲みこんで、ほっとする。


「んだよ、動かねーじゃん」

「乙女の心を暴こうとするからだよ」

「乙女ねぇ」

「文句あるの?」

「いいや? うら若き乙女だろう、那央は」

「わ……かってれば、ヨシ」



 危ない。変な声が出そうになってしまった。……急にそんなことを言われる身にもなってほしい。


「次、私の番ね」

「ん」


 私は湊にニヤリと笑ってやる。
 不思議そうに片眉を上げて、私を見る湊。


「こっくりさん、こっくりさん。蒼井湊の好きな人を教えてください!」


 きっとバカかお前って、茶化してくると思ったのに。


 湊はなぜか笑っていなくて。 


 真剣に私を見つめる瞳に、(はりつけ)にされたように体が動かなくなる。
 そんな私とは裏腹に、十円玉はゆっくりと動き出した。

 どうにか視線で、道筋を辿っていく。

 ……あぁ、嘘でしょう?


『さ』『く』『ら』『い』『な』『お』


 全てを繋げれば、櫻井那央──私の名前になった。
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