イケメンの人気者と、ぼっちな私の秘めごと
「さ、さくらいなおだって。同姓同名かな? まかさ、私なワケないもんね」


 あはは、と無理やり笑ってみせて湊を方を向けば、まだ私を見つめていた。
 ……とても真剣な瞳で。

 なんだろう。
 ぼうっと熱に浮かされたように、身体がふわふわとする。


「みな、と?」

「──俺にとっての『櫻井那央』は一人だって言ったら、どうすんの」

「……っ」


 どうするもなにも、そんなの。
 あぁ、だめだ。思考がまとまらない。
 あっちに行ったり、こっちに行ったり。

 わからない、どうしたらいいのか。


 服の擦れる音がしたと思えば、少し腰を浮かせた湊の顔が迫ってくる。


 ゆっくり、ゆっくりと。


 まるで『逃げる猶予(ゆうよ)はくれてやる』、と言っているようだ。

 動けない、動かない。

 だって、もしもその行動の意味が一つなら……私は。


 お互いの唇が触れるまで、あと数センチ。
 自分史上一番、心臓がうるさい。
 静まり返ったこの教室で、湊にも聞こえているかもしれない。


「那央」


 熱っぽく囁かれて。
 
 あぁ、やっぱりおかしい。
 だって、なんでこんなにも、恋に恋する乙女みたいに恥ずかしいのだろう?


 触れるまであと、数ミリ。
 熱い吐息がかかった気がした。




「──おい、そこの不良少年少女ども。不純異性行為で停学にするんぞ。いやする、『全俺』が傷ついて泣いたから」


 第三者の声に驚いて、慌てて湊から距離を取る。
 教室の入り口を見れば、私の担任教師が腕を組んで半眼で私たちを見ていた。


「やっ矢野(やの)先生!?」

「いかにも、天才矢野先生だが」


 驚きすぎてそれ以上言葉を繋げられない私にかわりに、腹立たしげに頭をガシガシとかいた湊が対応した。
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