イケメンの人気者と、ぼっちな私の秘めごと
「んだよ。矢野セン、空気読めねぇからモテねーんだわ。確定。引くわー」

「おい俺をいじめて楽しいか、人生楽しんでる若人《わこうど》よ」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「教師に向かって、すげぇ深いため息をつくなよ」

「これで悲惨な終わり方したら、矢野センのせいだからな」

「いや、それはお前のテクニック次第だろ? 好きな女性の一人やニ人、百人落としてなんぼだろ」

「百人の前に、一人もいねーだろ矢野セ──」


 物凄いスピードで湊に詰め寄った矢野先生は、湊の肩に腕を回し至近距離で湊を見る。


「その前に、不純異性行為は許さんが?」

「……悪かったって、矢野セン」

「てかお前ら、こんな夜中に学校に忍び込んで何してんだよ。校長に言えば、マジで停学だぞ」


 湊が顎で机の上を見るよう促せば、矢野先生は紙を見て「うわ、懐かしい」とテンションが少し上げた。


「こっくりさんじゃん。本当、懐かしいわ」

「矢野セン、一緒にやる友達いたの?」

「うわぁ、懐かしいな」

「なぁ矢野セン」

「でもこれ、結局指を動かしてんのは自分達なんだよ。なのに怖がっちゃってさぁ」

「おい矢野セン」

「……ぇだろ」

「ん?」

「居たワケねぇだろ。一人だよ、察しろよ。勝手に十円玉が動いだと思ったら、ガタガタ俺の指が震えてるだけだったの超怖かったわ!」

「お、おう」


 あ、矢野先生の可哀想なトークに湊は同情の目を向けている。
 でも私はそれどころじゃない。
 どうしよう……どうしよう。

 動かない私に気づいた湊が、心配そうに私の名前を呼ぶ。


「那央?」

「どうしよう湊……」

「うん? どうした」

「私、──途中で指離しちゃった!」


 綺麗な目をぱちくりさせた湊は、ぷっと吹き出した。
 
 なんで笑うの。
 こっくりさんの途中で指を離したら、呪われちゃうんだよ!?


「どうやったらそんな純粋になれんだよ、ふ、ははっ」

「笑い事じゃないのに!」
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