白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
 肌を重ね終えたあと。
 その感情を認めたくなかった私は、近くにあった枕を手繰り寄せた。
 彼は上半身裸の状態で、私の腰元に手を回して寝転がっている。

 どうやら、優越感に浸っているらしい。

 幸せそうなたんぽぽオーラを満開に振り巻いているのがいろいろとムカついたので、思い切ってあいつの顔に一発枕を投げ込んでやることにした。

 だけど――彼は軽々とその攻撃を拒み、毒気のない笑顔を私に向けてくる。

「おっと……。俺の天使は随分と暴力的だな。まぁ、そんなところもかわいらしいが」
「肌を重ね合わせたからって、今までの行いがチャラになると思わないで」
「ああ。罪は背負っていくつもりだ」

 ――口ではなんとでも言える。
 問題は、行動が伴うかだ。
 彼を信じるかどうかは……。
 これから一緒に働いて、判断すればいい。

「穂波。俺の妻に、なってくれないか」

 本当に私を狂しいほどに求めているのであれば、拒否権など与えなければいいのに。
 選べる立場であるならば当然、答えはNOだ。

「嫌」
「……どうすれば君は、俺のものになる」
「病院の改革。患者のことを第一考えて行動すること。看護師に手を出さない」
「もちろんだ! 約束する。君の望みは、すべてを叶えよう」
「全部問題を解決できたら、考えてあげてもいいけど……」
「わかった。その代わり、頼みがある」

 患者や病院の未来を人質に取り、私の身体を好き勝手に堪能してきた男の願いなど受け入れたくはなかったけれど――。

「一つ叶えるごとに、頑張ったご褒美がほしいんだ」
「はぁ……」
「難しいか」
「内容次第です」

 相手は医者で、私は看護師だ。
 従わないわけには行かず、渋々彼の願いを聞く。

「では、これより俺の願いを三つ伝える」

 ――三つもあるんだ……。

 内心呆れながらも、態度には出さないように気をつけながら彼の言葉を待った。
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