白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「一つ。俺に気を使わないでほしい」
「医者と看護師。年上と年下。御曹司と高卒。同列の立場になるのは無理があると思いませんか」
「二人きりの時くらいは、砕けた口調で構わない」
「私の素は、お上品なほうではありませんけど……」
「知っている。そこがより、天使の美しさを輝かせているからな」
「はぁ。そうですか」
天使がどうのこうのって話になると、この人は話が噛み合わなくなる。
その単語が出てきた瞬間、対話は諦めようと決めた。
「二つ。俺を名前で呼んでほしい」
「名前を呼ぶ理由がありません」
「夫を名前で呼ぶのは、当然のことだ」
「あの。数十分前の話、聞いてました? 彼氏を通り越して、夫を名乗らないで欲しいんですけど……」
「そうか。俺の天使はいきなり結婚よりも、まずは交際してから相性を確かめたいんだな」
「だから……」
「いいだろう。今日から君は、俺の彼女だ」
男女交際って、一方的に宣言するようなものだっけ……?
話しを続けてると、どんどん彼のペースに巻き込まれていく。
肌を重ね合わせたら、部屋から出してくれる約束だったのに。
いつまで経っても久松先生は、帰してくれないし……。
どうしたら、開放してもらえるんだろう……?
「最後の願いは、君との結婚だ。これは、病院の膿をすべて出し切ったあとで構わない」
「随分と自信があるみたいですね」
「当然だ。俺に不可能はないからな」
その自信は、もっと早くに発揮して欲しかったけれど――過ぎたことを責めたところで、どうしようもならない。
私が彼のやる気を損ねなければきっと、この病院をいい方向に導いてくれるはずだ。
院長を止められるのは、同等の立場かそれよりも強い権力を持った人に頼るしかいないのだから……。