白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
 ――今も病気に苦しんでいる患者と、つらい思いをしてる医療従事者が。
 私が彼にすべてを捧げることで、救われるのならば……。
 悪くはない提案だと考え、その条件を呑むことにした。

「わかりました。この病院を生まれ変わらせた暁には、あなたの妻になります」
「ああ……。天使が俺の妻になると約束してくれるなど……夢のようだ……!」

 私が渋々了承したことなど、まったく気にした様子がない。
 彼は目元を潤ませると、強い意志の籠もった瞳で、まっすぐ私を見つめた。

「もう二度と、離さない」

 ――腐敗しきった病院の改革なんて、絶対無理に決まっている。

 成り行きで交際することになってしまったが、彼と結婚することはないだろう。

 この病院は、沈みゆく泥舟だ。
 危ないと思ったら、辞表を叩きつけて逃げればいい。

 ――彼と肌を重ね合うのが、仕事にならなきゃいいけど。

 久松先生が私を、離すつもりはないと宣言したのだ。
 暴れるだけ無駄だと判断し、すべてを諦めて目を瞑った。

  
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