白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される

『はい、坊ちゃま』
「例の件。準備を進めろ」
『かしこまりました』

 多方面から恨みを買った人間を王座から引きずり降ろすのは、そう難しいことではない。
 問題は、そのタイミングだけだ。

 和典はずっと、仲間達とその機会を窺ってきた。

 水面下で証拠を集めていたことを知るのは、限られた人間だけ。
 何も知らされていなかった穂波は、この病院に味方などいないと絶望し、ずっと一人で戦っていたのだ。

「……穂波……」

 患者のために医者を怒鳴りつけるなど、自らの保身を考えるならば絶対にあり得ないことだ。

 けれど――彼女は捨て身の行動を繰り返した。

 時には遠くからその様子を眺める和典の肝が冷えるような危なっかしい言動を繰り返しながら、がむしゃらにたくさんの命を救ってきたのだ。

(俺の、天使)

 彼は患者の為に涙を流す彼女を美しいと感じ、心を奪われた。

(俺だけの、天使……)

 穂波には、笑っていて欲しい。
 純白の翼を羽ばたかせて光り輝く、神々しき天使のように。

(――闇に落ちるのは、俺だけでいい)

 今まで散々、現場の意見を聞き流してきた。

 悪行の数々を黙って見逃してきた和典は、悪魔と称されるにふさわしき男だ。
 本来であれば、真逆の性質を持つ彼女と結ばれるなど、あり得ない。

 ――それでも。
 彼は彼女を、諦められなかった。
 その結果が、このザマだ。

(――愛してる……)

 穂波の口から、愛が囁かれることがなくとも構わない。
 和典は彼女を妻として迎え入れる日を夢見て、ゆっくりと目を閉じた。

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