白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される

体調不良と交際暴露

 なんだか最近、調子が悪い。
 ご飯が炊ける匂いで気持ち悪くなったり、身体がだるいと感じることが多くなった。

 久松先生と関係を持った、ストレスかしら? 

 私はそんなことを呑気に考えながら、松ヶ丘総合病院で看護師として働き続けている。

 結局、辞表は提出しなかった。

 彼が病院の改革を行う姿を確認するには、外部からより内部で見届ける方が正確な情報を得られると判断したからだ。

 久松先生と成り行きで交際することになってしまった以上、病院でどんな顔をして働き続ければいいのかわからなかったけれど――。

「おはよう、我が天使」

 彼は私を天使と呼ぶ以外は、悪魔と呼ばれる冷酷な態度のままだった。
 簡単な話が、何も変わらなかったと言うことだ。

 だから私も、業務中は平常心を装っている。
 今のところ、大きな関わりはない。

 ――あれからもうすぐ、二か月が経とうとしていた……。

「久松せんせー! 僕ね、手術が成功したら、でっかいお城に住むんだ!」

 ある日、小児科病棟の回診を行う久松先生の姿を遠くから見た。
 冷酷な印象を与える瞳を眼鏡で覆い隠した彼は、無邪気にベッドの上ではしゃぐ少年の声に、じっと耳を傾けている。

 悪魔と呼ばれるような人だもの。
 入院患者を泣かせるんじゃないかって、気が気じゃなかったけど……。

「そうか。その夢が、叶うといいな」
「うん! 先生! 手術、絶対成功させてね!」

 ――彼は少年の夢をくだらないと一蹴することなく、優しい笑みを浮かべて肯定した。

 その反応は、久松先生らしくないな。

 そう感じた私は、モヤモヤとした気持ちを抱えながらナースステーションへ戻る。
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