白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「あれ? 三国さん。早かったですね」
「ちょうどよかった。聞いてもいいですか」
「どうぞ?」

 暇している同僚看護師を捕まえた私は、思い切って久松先生の印象を問いかけることにした。

「久松先生? 小児外科の悪魔でしょ?」
「そうですよね……」
「何? 意外な一面でも目にしちゃった?」
「はい……。入院患者の話を、しっかりと耳にしている姿を目にしてしまって……」
「夢でも見たんじゃない?」

 同僚には、あの悪魔が入院患者の話を聞くはずがないと言われてしまった。

 ――そうだよね……。

 私が相談した彼女の立場であれば、同じような返答をするはずだ。
 何も間違っていない。
 でも……どうしてこんなにも、胸騒ぎがするのだろう……? 

「あら。噂をすれば……悪魔がお目見えよ」

 その理由は、すぐに発覚する。

 ナースステーションに久松先生が姿を表し、私を視界に捉えた瞬間――数秒前までの冷酷な瞳が嘘のように、柔らかな笑みを浮かべたからだ。

「ここにいたのか。我が天使」

 その言葉を耳にした同僚達の反応はさまざまだ。

 何事もなかったかのように、仕事に集中する者。
 驚きで目を見開き、彼を凝視する人。

 私と直前まで話をしていた同僚は、右腕を引っ張り上下に揺すった。

「ちょっと! 天使って何!?」

 ――その答えを、残念ながら私は持っていなかった。

 グラグラと身体が揺れるたびに、吐き気が身体の奥底から湧き上がってくる。
 思わず口元を左手で押さえれば、久松先生の大きな指が私の方へ伸びてきた。
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