白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「――顔色が悪い。休憩室に運んでも?」
「は、はぁ……よろしくお願いします……」

 同僚は右手を勢いよく離すと、久松先生が私を連れ出すために邪魔にならない場所まで距離を取る。

 彼の世話になりたくなかった私は、どうにか気合いで吐き気を我慢すると、歪な笑みを浮かべて差し出された手を拒絶したのだが――。

「顔色の悪い彼女が目の前にいたら、彼氏が心配するのは当然のことだろう」

 彼の爆弾発言によって、再びナースステーションは騒然としてしまった。

 私のせいで騒がせてしまって申し訳ない。
 これ以上変なことを口にしないよう、釘を差しておかないと……。
 私は青白い顔のまま、久松先生へ苦言を呈した。

「久松先生……。こんなところで、宣言しなくてもいいじゃないですか」
「俺の美しき天使を傷つける不届き者が現れたならば、容赦はしない。そう、事前に説明しておかねばな……」

 久松先生は目が腐っているので、どうやら私が誰かに奪われてしまうのではないかと心配しているらしい。
 とてもじゃないが、正気とは思えなかった。
 得体の知れない彼の行動に、ますます気分が悪くなりそうだ。

「俺は君との約束を、果たしたはずだ」
「なんの話ですか」
「患者のことを第一に考える。看護師に手を出さない――二つの条件はクリアした」
「それは……」
「俺のことは名前で呼び、敬語は止めるように」

 それは二人きりの時だけでしょ? 
 平常時もなんて聞いてない! 

 そう声を荒らげたかったけれど、相手は次期院長だ。
 一介の看護師が盾つけるような相手ではなく、私は視線を逸して無言の抵抗を試みるしかない。

「我が天使はご機嫌斜めのようだな……」

 肩を竦めた彼はため息を溢すと、私を抱き上げ休憩室へ歩き出す。
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