白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「ちょっと! 仕事中ですから……!」
「根を詰めて、働きすぎだ。少しは休め」
「私だけじゃありませんから……!」
「また敬語になった」
「……ひさ……」
「名字ではなく、名前で呼ぶように」
「……仕事中もなんて、聞いてない」

 看護師を抱き上げ、穏やかな口調で話す久松先生の声を聞いた医療従事者達は、すれ違うたびに何事かを歩みを止めた。
 数時間後、病院は彼の話題で持ちきりになりそうだ……。

「他人行儀な姿を見るのは、我慢ならなくてな……」
「公私混同しないで」
「これから院長失脚に向けて、本格的に動くつもりだ」
「だから……」
「俺のそばで、見守っていてほしい」

 潤んだ瞳で見つめられてしまえば、拒否などできない。
 それはこの病院で勤務する医療従事者の、悲願だからだ。
 私がいなければやる気にならないと言うのなら、ここは黙って頷くしかない。

「……うん」
「ありがとう。それでこそ、俺の天使だ」

 彼は私を抱き上げたまま休憩室に入ると、足を使って器用にパイプ椅子を横一列に並べる。

「寝心地は悪いかもしれないが……」

 久松先生は私をそこへ横たえると、長い髪を優しく撫でた。

 ――彼は大袈裟だ。

 少し気分が悪くなっただけで、毎回騒がれては仕事にならない。
 ゆっくりと身体を休めている場合ではないのに……。

 彼が私の些細な変化に気づいてくれたことが嬉しくて……。
 髪を撫でられるとなんだか安心してしまい、眠くなってきてしまった。

「和典、さん……」
「仕事のことは、心配するな。身体を休めることだけに集中しろ」

 彼の言葉に後押しされた私は、ゆっくりと目を頭り意識を手放した。
< 18 / 43 >

この作品をシェア

pagetop