白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される

元院長と院長就任

 ――久松先生は暇さえあれば、私の様子を見に来た。

 二週間も経てばすっかり私と彼が交際してることを知らぬものはいなくなり、公然の秘密として認識されている。
 なんだか、同僚達から温かい目で見守られているような……? 

 私は彼らの視線に怯え、時折原因不明の体調不良に襲われながらも、松ヶ丘総合病院で働いていた。

 ――そんなある日のこと。

 現在病院の会議室では、修羅場の真っ最中だ。

「松ヶ丘総合病院の院長は、俺が務めることになった」
「和典、貴様……!」
「こうなることなど、最初からわかっていただろうに」
「なんだと!?」
「辞めていった医療従事者からパワハラの訴えを起こされているだけならまだしも、医療ミスを複数件揉み消しているだろう」
「だからなんだ!」
「マスコミに嗅ぎつけられた以上、それが世に出回ればこの病院の評判は今よりもっと悪くなる」
「そんなこと! 金の力で、どうとでもなる……!」

 この期に及んでも、院長は金の力でなんとかしようとしていた。
 彼は発売を数日後に控えた週刊誌を投げつけると、気怠げな表情で父親へ告げる。

「ならないから、こうして俺が院長になると手を上げたんだ」
「貴様のような若造が院長になって、何ができる!?」
「俺は天使の為ならば、悪魔になれる。病院の悪評を一層し、生まれ変わらせることなど造作もないことだ」
「貴様は何を言っている……!?」

 この反応だけは、院長が正しい。

 息子が突然天使などと言う、意味不明な単語を発したのだ。
 驚愕するのは無理もないのだが、この場にいる一部の人間達は私を見つめて遠い目をしていた。

 散々天使と呼ぶ姿を、目撃していたからだろう。
 医療従事者が一堂に会するこの場でもその単語が紡がれるなど思っても見なかった私は、一気に居心地が悪くなってしまった。
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