白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「貴様には関係のないことだ」
「な……! 私はこの病院の院長だぞ!?」
「記事をよく見ろ。そこには貴様の悪行が所狭しと、事細かに並べられている。金でもみ消して来たもの、すべてがな……」
「な、なぜ……! 誰がこんなことを……!」

 彼はその質問に応えなかったが、一枚噛んでいるのは間違いない。

 私は久松先生が秘密裏に集めていた証拠を一纏めにして、週刊誌に記事を書かせたと思っているけれど……。
 犯人探しなど、する必要がない。

 私達が興味関心を持つべきなのは――このまま院長が無事に、失脚してくれるかどうかだけだ。

「貴様には二つの道がある。このまま自ら辞職し、その週刊誌記事を闇に葬るか。みっともなく理事長の椅子にしがみつき、白い目で見られ続けながら病院とともに地獄へ落ちるか……」
「貴様もタダでは済まんぞ!?」
「後者を選ぶようであれば、本日づけでここにいる医療従事者の8割が辞職する」
「なんだと!? 患者はどうするつもりだ!」
「受け入れ先はすでに手配してある。その記事が出回れば、この病院に未来はない」
「く……っ」

 久松先生は冷酷な悪魔と呼ばれた手腕を遺憾なく発揮し、院長を追い込んでいく。
 その光景は見事としか言いようがなく、先程の天使発言など忘れて魅入ってしまった。

 逃げ道を塞がれた院長は週刊誌を手に取り、それをビリビリと破り捨てる。

 千切られたページが空を舞う。

 鬼の形相で久松先生を睨みつける院長が恐ろしすぎて、真正面からその視線を受け止める彼はよく大丈夫だなと感心してしまった。
 あそこにいるのが私なら、間違いなく耐えられない。

 さすがは悪魔と呼ばれし男だ。
 そう感心しながら、私は成り行きを見守っていた。
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