白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「穂波。君との約束は、すべて達成した。俺と結婚してほしい」
――その日の勤務終了後。
久松先生に呼び止められた私は自宅へ連れ込まれ、プロポーズを受けた。
彼は院長に就任しただけで、すっかりすべて終わった気になっているようだが――残念ながら、これは始まりにすぎない。
約束がしっかりと果たせているか確認するのは、まだまだ先の話だ。
「院長になったら結婚するなんて、約束した覚えはないけど」
「……俺はいつまで、我慢すればいい」
「この病院の悪評が、綺麗サッパリなくなるまで」
「我が天使の魅力に、他の男達が気づいてしまうのではないかと……俺はいつも不安で仕方ない……」
「私を天使なんて称するのは和典さんだけだから。そんな人はあなた以外現れないでしょ。焦らなくてもいいんじゃないの」
私のことを天使などと称する人間が数え切れないほどに現れたら、困ってしまう。
久松先生だけでも、手に負えないのに……。
頭の中で私を天使と呼ぶ彼の姿を複数人想像しながら、勘弁してほしいと視線を逸した。
「俺の天使は、いつになったら心を開いてくれるんだ?」
「身体は好きにしてもいいけど、心までは奪わせないと言ったはずだけど」
「聞いている」
「それ、了承してるよね?」
「ああ。だが、俺は諦めない。我が天使が満面の笑みを浮かべ、愛を囁く姿を……!」
彼は私が愛を囁く姿を想像したのか、恍惚とした表情を浮かべながら、瞳に涙を浮かべていた。
冷酷な悪魔と呼ばれていたはずの院長が、彼女である私に入れ込んでいる姿を見たら、同僚達は気味悪がって仕事にならないんじゃないだろうか。
実際天使と呼ぶ姿を見ただけでも、相当驚いていたし……。
――私もみんなと一緒に、あの子が久松先生の彼女なの? って、不思議そうにしていたかったな……。
叶わぬ願いを胸の奥底に抱きながら、私はご機嫌な様子の久松先生を呆れ顔で見つめることしかできなかった。