白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される

噂の真相



 院長になってからの久松先生は、小児外科医として働いていた時よりも多忙になった。
 ただでさえ手術やら仕事をしない医者達の穴埋めをするため、病院内を駆け回っていたのに。
 院長の仕事が追加されたのだ。

 面と向かってゆっくりと話し合う時間など、取れるはずもなく。
 私達はすれ違い続けていた。

「最近ナースステーションに、三国さんの様子。見に来ないわねぇ」

 ナースステーションでいつ鳴るかわからないナースコールの待機をしていた私は、同僚から話しかけられる。

 彼女は久松先生が私を天使と呼ぶことを、一種のアトラクションか何かと勘違いしているらしく、彼の姿が見れないと働き甲斐がないなど苦言を呈していた。

 そんなこと言われても……。
 私だって、好きでそう呼ばれてるわけじゃないから。

 それに、用もないのに院長が恋人へ会うためだけにナースステーションへ様子を見に来るなんて、仕事の邪魔でしかない。

「平和なのはいいことですよね」
「その言い方じゃまるで、彼氏に会いたくないみたい」
「……天使って呼ばれるの、好きじゃないので」
「ええ? どうして? 愛されてるって感じがするのに!」
「柄じゃないですから」
「そう? 言われてみれば、天使っぽいところはあるよ? 現代に舞い降りたナイチンゲールって感じ!」
「茶化すのはやめてください」

 久松先生にだってそう呼ばれるのは嫌なのに、同僚からもそう称されるのであれば、いよいよ辞表を胸元から取り出し、机に叩きつけるしかない。

 ――彼はきっと、私が病院を辞めたいなんて言ったら許さないだろうな……。

 私のために仕事を頑張っているとまで豪語している人だ。
 くだらない理由で病院を辞めるのであれば、働きたくない理由を消し去りそう。

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