白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される

「こちらへどうぞ」
「はぁ。ありがとうございます」

 促された椅子に腰を下ろせば、同僚は対面の席に座った。
 私は彼女の口から言葉が紡ぎ出されるのを待っていたけど……。
 いつまで経っても声が聞こえない。

 仕方なく、こちらから促すことにした。

「私に一体、なんの御用でしょうか」
「そんなに警戒しないで。何も、取って食おうなど思ってないわ」

 そうやって油断させ、ぱくりと丸呑みにするつもりなんでしょう? 
 あなた達の魂胆はお見通しよ。
 私は屈したりしない。

 ――硬い表情で戦闘態勢のまま、同僚が口を開くのを待っていたからだろうか。
 彼女は呆れたようにため息を溢すと、やっと本題に入ってくれた。

「久松先生と、交際し始めたそうね」
「それが、何か」
「別れろと言うつもりはないわ。ただ、誤解してるんじゃないかと思って……」
「あの。時間がもったいないので、はっきり言ってくださいませんか」
「そうね。勿体ぶるのはやめましょう」

 女性は覚悟を決めたように真剣な眼差しをこちらへ向けると、私に告げた。

「三国さんも、耳にしたことくらいあるわよね。久松先生の噂」
「冷酷な悪魔と呼ばれていることですか」
「ええ。そうよ。彼は看護師に身体を差し出せと迫り、手術後休憩室へ頻繁に毎回異なる女性を連れ込んでいる」

 ――まさか今も女性と関係を持っているのだと、密告でもしに来たのだろうか。
 私は戦々恐々としながら、彼女の唇から言葉が紡がれるのを待つ。

「やましいことなんて、何もないのよ」

 ――聞こえてきたのは、拍子抜けするような内容だ。

 想像していたものではなかったことに安堵しながらも、私は緊張の面持ちで理由を耳にする。

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