白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「清廉潔白だと、院長に目をつけられてしまう。きっと彼は、それを恐れたのね。私も何度か呼ばれたけれど、パワハラやセクハラは一切なかった」
「あなたの発言を、私が信じられるとでも?」
「久松先生もまったく、同じことを言うと思うわ」
「口裏合わせは済ませているんですね」
「三国さん……。久松先生は、あなたを深く愛しているのよ。嘘なんて、つく必要がないわ」
「あなたに言われなくたって、わかってます」
彼が私に向ける愛は、本物だ。
彼女である私が疑うのならまだしも、他人から指摘されるのは我慢ならない。
苛立ちを隠すことなく、同僚へ吐き捨てた。
「あの人が私に愛を囁いて来なければ、交際などしませんでした」
「そう……。ならやはり、あなたは知るべきだと思うわ」
「必要ありません」
「三国さん! 久松先生は――」
どうせろくでもないことに決まってる。
傷つくことになるくらいなら、聞きたくない……!
両手を使って左右の耳を塞いでも、同僚女性の声はよく聞こえてきた。
「看護師達に、三国さんの勤務態度がどんなものかと聞いていただけなのよ」
彼女の口から紡がれた言葉は、想像もつかないもので――。
私は目を見開き、呆然と同僚女性を見上げるしかない。
「仰っている意味がよく、わかりません……」
「久松先生は、あなたをつねに手元へ置いておきたいのでしょうね。でも……」
「でも?」
「危険が及ぶことを恐れて、遠ざけている」
「なんですか、それ」
「院長の目を欺き、愛する人の勤務態度を知れる。久松先生にとっては、一石二鳥とも言える時間だったのよ。勘違いされているのは、かわいそうだわ」
あなたにあの人の、何がわかるんですか?
知ったような口を利くな!
喉まで出かかった言葉をどうにか飲み込み、唇を噛みしめる。
同僚の看護師と張り合ったところで、無意味でしかない。