白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
『久松先生の彼女は私です』

 ――そんな宣言をしたら、今度こそあの人から逃げられなくなってしまう。
 久松先生に恋愛感情を持たない私は、彼の彼女だと胸を張って宣言する資格などないのだから。

 嫉妬なんて、あり得ないのに……。

「素敵な先生に愛されるなんて、三国さんは幸せものね」

 私の幸せを勝手に決めつけて、押しつけて来ないでください! 

 叫び出したくなる気持ちを、どうにか押し留めた私は、小さな声で同僚にお礼を告げた。

「ご忠告、感謝します……」
「末永く、お幸せに。あなたならきっと、素敵な院長夫人になれると信じてるわ」

 ――私の知らないうちに、勝手に進むべき未来が定められている。

 そのことに言いようのない焦りと危機感を抱いた私は、どうすればいいのかわからなくなってしまった。

 久松先生に肩入れしている人達はみんな、私が彼と結婚することを望んでいるらしい。

 どうして私なのだろうかと、不思議で仕方なかった。
 私にはなんの取り柄もない。
 命の危機に瀕する患者さんを一人で救えない看護師が、この病院で働き続ける意味はあるのだろうか? 
 ましてや院長夫人なんて……。

 そんなの、考えたことなどなかった。
 私があの人を支えるなんて、想像もつかないことだ。

 久松先生にはもっと、おしとやかで……かわいらしい女性が相応しい。

 私なんかが彼女を名乗っていることだって、おこがましいのに……。
 生涯そばに居続けるなど、あり得ない。

 ――そのはず、だったのに……。

 久松先生の隣に私以外の女性がいることを想像したら、胸が痛むのはどうして? 

 恋愛経験の浅い私にだって、その答えくらいは知っている。

 それは、私が……。
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