白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される

元院長とトラブル

「ほう。君が、和典の天使、か……」

 あの人へ抱く思いに気づいて、呆然としたタイミングが最悪だったとしか言いようがない。

 私の目の前にはいつの間にか、ここにいるはずのない人が立っていた。

「――どうして、あなたが……」
「ふん。あの程度で、私が失脚するとでも? 舐められたものだ……!」
「きゃ……っ!?」

 久松先生の父親――松ヶ丘総合病院の元院長は彼とよく似た低い声で唸ると、勢いよく右手を振り上げた。

 殴られると思い、両手を額の前に出して頭を庇おうとしたのが悪かったのだろう。
 元院長は私の両手を強引に掴むと、壁に背中を叩きつけて頭の上で固定する。

 やられた……! 

 両腕の自由を奪われたことに気づき、すぐに両足を動かして逃れようとするけれどビクともしない。

「和典の一番大切なものを穢せば、あの男は君を助ける為に私を院長へ返り咲かせるだろう!」
「離して……!」

 私を穢した所で、彼の父親が院長に復帰することはないはずだ。
 病院を追われたのがショックすぎて、冷静な思考能力すらもどこかに忘れてきてしまったようだ。

「君にはなんの恨みもない。せめての償いに、最上級の夢を見せてやろう……!」

 目の前の男は下衆な笑みを浮かべながらそう宣言すると、首筋に顔を近づけてきた。

 ――今この場で、久松の名を持つ男に抱かれなければならないのなら
 あの人にこの身を差し出す方がよっぽどマシよ……! 

「私は、和典さんのものです……!」

 鬼の形相で元院長を睨みつけながら、普段であれば絶対に紡ぐことのない言葉を吐き捨てた瞬間――それは音もなく忍び寄る。
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