白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「貴様と血が繋がっているなど、考えるだけでも虫唾が走る……!」
「な……っ! それが父親に対する態度か!?」
「貴様を父と思ったことなど、一度もない……!」
「く……っ! やめろ!」
「穢らわしい手で俺の天使に触れるな!」

 ――元院長を一喝した久松先生は、私を助け出してくれた。

 まさか駆けつけてくれるとは思わず、驚きで目を丸くするしかない。

「久松先生……どうして……」
「また名字呼びに戻るのか。約束したはずだ。名前で呼ぶようにと」
「あれは咄嗟に……」
「……咄嗟に名前で呼べるならば、問題はないはずだ」
「今って、こんなくだらない話をしてもいい時間でしたっけ」
「くだけた口調で、とも伝えたかったはずだが……」
「二人きりではないんですから……」

 彼はすっかり父親のことなど、どうでもよくなっているらしい。
 私しか見えていないようだ。

 相手が武器を持って襲いかかってくるような人間であれば、今頃久松先輩は……。

 ――嫌だ……。

 私のせいで彼が命を落とすなど、冗談じゃない。

 天使と呼ばれても、どうしたらいいのかわからなくて……。
 あまりいい感情を抱けなかったけれど……。
 もしものことを考えて、気づいてしまった。

 久松先生はすでに、私の中で失いたくない存在になっていることに。

「俺の天使は、いつになったら微笑んでくれるんだ」

 その気になればいつだって。
 あなたとともに歩む覚悟ができたと、口にするのは簡単だ。
 でも……それはきっと、今じゃない。

「……あなたが悪魔と呼ばれていたことを知る人間が、ここからいなくなった時」
「何年かかると思ってる。俺はそこまで、待てないぞ」

 久松先生は仲間達の姿を思い浮かべ、顔を顰めた。
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