白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
 誘いをかけられた彼女達に、拒否権はない。

 彼は手術後看護師を連れて、休憩室に消える。
 その後、あの人と関係を持った彼女達は口を閉ざし、何事もなかったかのように業務を続けていた。

 久松先生は看護師の間で、松ヶ丘総合病院の悪魔と呼ばれている。

 そんな人に、協力なんて依頼できるわけがない。

 久松先生と肌を重ねるくらいだったら、医療ミス覚悟で寝起きの研修医に身体を差し出した方がよっぽどマシだ。
 患者を助けるためなら、いたし方ない。

 覚悟を決めた私は恥も外聞もなく、宣言して見せた。

「患者の命が助かるのなら、お安い御用です! 好きでもない男にも、喜んでこの身を差し出しますよ! さあ! 早く手術を成功させてください!」
「あの。僕にも好みと言うものが……」

 野田先生は私を上から下まで凝視すると、ドサクサに紛れて好みじゃないと断ってきた。

 人の命を一体、なんだと思ってるの!? 

 私の身体を差し出さなくてもいいなら、それに越したことはないけど……。
 野田先生がやる気になってくれないと、貞操の危機は去っても患者を助けられない。

 どうしたらいいの……? 

 これまでかと、私が諦めかけた時だった。

 背筋が凍るような低い美声が、後方から聞こえてきたのは。

「――手術を成功させればいいんだな」
「ひ……っ!」

 野田先生が悲鳴を上げるのも無理はない。

 研修医は総合病院において、時には看護師よりも立場が下だからだ。
 相手が悪魔と呼ばれる――御曹司であり小児外科医であれば、恐怖で顔が引き攣るのは当然だ。

 あの人がやってくるとは、思わなかった。

 そう思ったからこそ。
 私も呆然と、彼の名を呼んでしまった。
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