白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「……私があなたの妻になれば、悪逆非道な行いは謹んでくれる?」
「ああ。もちろんだ。我が天使の夫にふさわしき、清廉潔白な男になろう」

 非の打ち所がない、誰もが羨む院長――なんだかイメージが湧かないけど、松ヶ丘総合病院を利用する患者にとっては……。
 悪魔がいるところより、評判のいい施設に通院したいだろう。

 私の幸せ。
 和典さんの想い。
 これから生まれて来る子どもの幸福。

 松ヶ丘総合病院にかかわる人達がなんの憂いもなく、治療に専念できる。
 環境づくりのためにも――。

「この子も、穂波も……! 生涯愛し続けると誓う。頼む。俺と、結婚してくれ……!」

 彼のプロポーズを受けるのが一番なのは、間違いなかった。

 ――潮時、かな。

 こんなところで自分の気持ちを伝えるつもりはなかったけど……。
 私が意地を張らなければ、すべてが丸く収まる話だ。

 ――伝えてみよう。
 彼に、私の気持ちを。

「……和典さんって、私の前では情けなくなりますよね」
「俺は普通にしているつもりだが」
「私のこと、天使って呼ぶし……。他人にどう思われようが関係ない、みたいな立ち振舞いが……」
「嫌なのか」
「……理解できなかった。最初は、演技だと思ってたの。悪魔と呼ばれてる方が、素だと勘違いしていて……」
「そう思われるように、振る舞ってきたからな。勘違いするのも無理はない」

 私の告白にも嫌な顔一つしない彼は、腹部を撫でながら私の気持ちを否定しないで受け入れてくれる。
 この場で言い争いになったら、きっと何もかもが嫌になって逃げていただろう。
 和典さんが冷静に、話のできる状況でよかった。
 私は瞳からはポタポタと大粒の涙を流しながら、彼に告げる。
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