白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「……元院長を、見て見ぬ振りをしてきたこと。ずっと、許せなかった」
「すまない。どれほど謝罪をしても、償えることではないだろう。たくさん、泣かせてしまったな……」

 空いている左手で私の涙を拭った彼は、優しい言葉をかけてくれた。
 和典さんは、いつだってそうだ。
 悪魔など呼ばれているのが嘘のように、私を受け入れ愛してくれる……。

 世界中のどこを探したって、私に優しく接する男性は彼以外存在しないだろう。
 逃げるなど、とんでもない話だ。

『君はもう、俺の人生には必要ない』

 そう宣言されるその日まで。
 彼にみっともなく縋りつけばいい――。

「……私の涙も、無駄ではなかったのかもしれない。そう思えるようになったのは、あなたが私の好意を引き出すために、この病院を変えようと行動してくれたから」
「穂波……?」
「この子が、私達の元に生まれ来てよかったと思えるような……父親になってほしい……」
「もちろんだ」

 私の言葉をプロポーズの答えと受け取った彼は、力強く頷いた。

 ここで戸惑うような素振りを見せたら、決意が揺らいでしまったかもしれない。
 私は内心ほっとしながら、彼を潤んだ瞳で見つめる。

「一生、離さない」

 和典さんは鋭い目つきで私を逃さないと訴えかけながらそう告げると、唇を重ね合わせ――永遠の愛を誓った。
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