白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「関係を持った当初から、私は天使なんて柄じゃないし……」
「謙遜する必要はない」
「いや、だから……」
「俺にとって穂波は誰よりも美しく、神々しき天使だ」
「ああ……うん……」
「文句がある人間には、言わせておけばいい。俺の天使を穢そうと目論む奴らは、悪魔の毒牙にかかる。それだけの話だ」
「はぁ……もういいよ。それで……」

 何度か天使呼びをやめてくれと言う話はしてきたけれど、彼に凄まれるとどうしても強く押しきれないのよね。

 結局私をそう言う風に称するのは、愛情表現の一種だもの。

 和典さんから愛されることに、悪い気はしないし……。

「ああ。穂波が納得してくれて嬉しいよ」

 話し合いを終えたあとの満足そうな微笑みを見ると、何もかもがどうでもよくなってしまうのよね。

「和典さん」

 冷酷な悪魔と呼ばれていた、小児外科医としての彼と……。
 私と娘を天使と称し、たんぽぽの綿毛みたいな穏やかな表情を浮かべる和典さんが、本当に同一人物なのかと時折疑うことがある。

 二重人格とか、双子とかね? 

 だけど、残念ながらそうした事実は存在しなかった。
 六年も一緒に過ごしたら、彼がどう言う人かはよくわかるでしょう? 

 私は和典さんからたくさんの愛を受け取って、気づいたの。
 どちらも嘘偽りのない、彼の姿であることに……。

「あなたは冷酷な表情をしているよりも、優しく微笑んでいる方が素敵だと思う」
「……小さな天使が誕生する前は、強引に迫った方が嬉しそうだっただろう」
「そんなことは、ないけど……?」

 今も昔も変わらないと思うけど……。
 どうかな? 

 案外和典さんは私のことを自分以上によく見ていて、彼の意見は本質をついてることも多いから……。

 そう言うことにしてあげても、いいかな。
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