白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「たまには、な。いつも穏やかな父親や夫でいるより、院長として威厳のある姿も見せた方が、より天使達のハートを鷲掴みにできる。俺はそう信じたい」
「……うーん。そのあたりは、好きにして……」
「二面性のある俺は、嫌いか?」

 ――嫌いなんて聞かれたら、否定するしかないじゃない……。

 私はなんだか負けたような気がして、娘と言葉を交わし合う佐野先生を見つめた。

「やっぱりわたしには、悪魔の血が流れているの……?」
「お嬢さんは人間ですよ。安心してください」
「でも! お母様は天使だわ!」
「院長先生がそう呼んでるだけで……」
「お母様、天使じゃないの……?」

 佐野先生は娘に変なことを吹き込もうものなら、和典さんの雷が落ちると怯えているようだ。
 苦笑いを浮かべて、泣き出しそうな少女を宥めようと必死になっている。

「穂波。他の男に、よそ見するな」

 あれは止めに入った方がいいわよね……? 

 和典さんに問いかけようとすれば、彼は独占力と嫉妬心を拗らせて大変なことになっていた。

 顔が険しい。
 冷酷な部分が見え隠れしている。

『俺の目が黒言うちは、不倫など許さん』

 目を合わせた私は彼からのメッセージを受け取り、引き攣った笑みを浮かべるしかない。
 背中に天使の羽が生えていたら、今頃もがれて監禁されそうだ。

 ――人間でよかった……。

 怯えたり、ほっとしたり。
 感情をジェットコースターのように変化させながら、無駄だと知りながらも夫に向かって弁解してみた。

「娘の様子が、気になっただけよ」
「どうだかな……」
「私を疑うの?」
「やはりあの男には、消えてもらうしか……」
「ひっ!?」

 ちょっと。話を聞いてよ。
 和典さんの低い声を耳にした佐野先生は、消されると勘違いして怯えている。
 そのリアクションは、私に抱かせろと最低な発言をした彼の言葉を耳にした時と、そっくりだった。
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