白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
 何年経っても、変わらないのね。

 そんな言葉を口にすれば、旦那様の機嫌を損ねてしまう。
 私は苦笑いを浮かべると、彼の腕に自ら手を絡めた。

「そんなこと、する必要ないから」
「仰せのままに。我が美しき天使」
「だから……」
「――それと。腕ではなく、指先を絡め合いたい」
「好きにすれば」
「ああ」

 私から許可を得た和典さんは、幸せな笑みを浮かべて腕を組んだまま指先を絡め合う。

 ――いい年して、恋人繋ぎか……。

 思うことはあったけど……。
 相手が愛する旦那様であれば、わざわざ口にする必要はない。
 私は彼からの愛を甘んじて受け取ると、怯える佐野先生を不思議そうに見上げながら、慰めるように頭を撫でている娘に声をかけた。

「小さな天使さん。お散歩の続きをしましょうか」
「はい! お母様!」

 佐野先生に別れを告げた娘が、こちらに走ってやってきた。
 先程までと同じように私達の間へ入ろうとしたけれど、指を絡め合っているせいで割って入れず困っている。
 私は彼に、手を離すように伝えようとしたのだけど……。
 和典さんが、娘に声をかける方が早かった。

「おいで。俺の小さな天使」
「お父様! 私もお母様と、手を繋ぎたいわ!」
「今は我が美しき天使達のぬくもりを、歩きながら感じていたいんだ。これで我慢してくれ」
「わぁ! 高ーい!」

 彼は左手で軽々と娘を抱き上げると、右手の指を私と絡め合ったまま歩き出した。

「穂波」

 娘が生まれても、彼は変わらず私にたくさんの愛を注ぎ込んでくれる。

 美しき天使と、小さな天使。

 そう私と娘を呼ぶのは馴れないし、やめてほしいって思う時の方が多いけど――。

「はい。和典さん」
「これからも俺と一緒に、居てくれるか」
「……喜んで」

 私はもう、逃げない。
 あなたとともに、生涯そばにいると誓うわ――。
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