白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
 どうやら彼は、空想の中にいるらしい。

 難しい手術を数充分とかからず成功して見せたせいで、興奮しているのだろうか? 
 そう言うのは、私が相手ではない時にしてほしい。

「さっきから天使って連呼してますけど。誰かと勘違いしてませんか」
「いや。俺の天使は三国 穂波(みくに ほなみ)。君だけだ」
「……私の名前、覚えていたんですね」
「愛する人の名を忘れるわけがないだろう! まぁ……そう遠くない未来に、君は久松穂波になるがな……」

 また、意味不明なことを言っている……。
 頭の中は一体、どうなっているのだろう? 

 言葉を交わしたところで理解できないのであれば、対話を諦める以外の方法がなかった。

「こうやって、何人の女性と肌を重ねて来たんですか」
「――君だけだが」
「検査とか、定期的にしてますよね?」
「ああ。当然だ。俺はいつでも天使を抱けるように、最善の準備を整えている!」
「噂に違わず最低ですね」
「ああ、俺の天使! もっと言葉を交わし合おう……!」
「手籠めにしたいのか、穏便なお話し合いだけで終わらせたいのか、どっちかにしてくれます?」

 そもそも私、仕事中なんだけど……。

 また急患が担ぎ込まれて来たら、行為の最中に呼び出されるかもしれない。
 未遂で終わるなら、それはそれで構わないけど……。

 この人もやはり、腐った松ヶ丘総合病院の関係者だ。
 欲望のままに勤務中の看護師を自室に連れ込み、事を運ぼうとするなんて。
 正気じゃない。

 やっぱり嫌いだ。

 こんな病院、潰れてしまえばいいのに……。

「……ああ、泣かないでくれ。君は涙を流す姿は惚れ惚れするほど美しいが、俺はその光景に弱いんだ……」
「誰のせいだと……!」

 私の瞳からは、涙が零れ落ちていたようだ。
 あの人は頬に付着した雫を指で拭い取ると、怒り狂う私へある提案をしてきた。

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