白衣の天使は、悪魔の小児外科医から子どもごと溺愛される
「手を差し伸べるのが遅くなって、本当にすまない。準備は整った。君が望むのであれば、この病院を素晴らしき楽園へ作り変えよう」
「……何、言って……」
「俺はこの病院の、次期院長だ。その気になれば、いつだって悪事を働いてる奴らを追い出せる」
「だったら……! どうして今まで、見て見ぬ振りをしてきたの!?」

 私は久松先生の言葉が、信じられなかった。

 彼がこの病院をよくしようと、もっと早くに行動してくれたなら。
 助かった命だってあったはずだ。
 優秀な医者だって、この病院を辞める必要などなかった。
 医療従事者同士のコミュニケーションがしっかりと取れる環境であれば、患者のためにもっとよりよい医療を届けられただろう。

 今まで散々、私腹を肥やして来たくせに。
 心変わりしたと言われても、受け入れられるはずがなかった。

「今まで一人で、よく耐えたな」
「あなたにだけは、慰められたくない……!」
「そうだな」

 どれほど相手が、憎たらしい人物だったとしても。
 一度交わした約束は、守らなければならない。

 覚悟を決めた私は彼を睨みつけながら、襟元を握り締めた。

「身体はあなたのものになったとしても、心までは奪わせないから……!」
「それでも構わない」

 ブラウスのボタンを自ら外し、胸元を露出した私の手に、彼の大きな掌が触れる。
 指先は氷のように冷たく、身体は小刻みに震えてしまう。

「従順なのは大変好ましいが……」
「……さっさと、終わらせてください」
「いや。時間をかけて、ゆっくりと愛し合おう」

 私達の間に、愛なんてないんだから……! 
 時間をかけてじっくりなんて、拷問でしかない! 

 彼は壊れ物に触れるような優しい手つきで、全身を撫でつけた。
 そのたびに私の身体は驚くほど反応を示し、奥底から抑えれない熱が湧き上がってくる。

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