不器用な総長は元アイドルの姫を一途に愛したい
「えっと……そう、です……」
「マジっすか!? え? ってか何でえなりんが斗和さんと!?」

 彼のような反応には慣れている恵那だけど、あまりの気迫に押され気味で戸惑っていると、

「おい(しのぶ)、何なんだよ、その『えなりん』ってのは」

 茶髪の少年――針ヶ谷(はりがや) 忍に向かって一体何事かと問い掛ける斗和。

「え? 斗和さんもしかして、えなりん知らないんですか!?」
「え!?」

 そんな斗和に忍は勿論、恵那も驚き二人揃って斗和を見た。

「な、何なんだよ?」
「えなりんは【CANDY POP】の人気ナンバー1で常にセンターポジションの超人気アイドルですよ!?」
「アイドル!? 海老原、お前、アイドルなのかよ?」
「……うん、一応……」
「どうりでお前をどこかで見たと思ったわ」

 忍と恵那の言葉で、初対面に感じた既視感の正体が分かった斗和は一人納得する。

「うわー、嬉しいなぁ、まさかこんな所でえなりんに会えるなんて!」

 喜ぶ忍をよそに、若干引き攣った表情を浮かべる恵那を前にした斗和は、

「おい忍、テメェはそういうキャラじゃねぇだろうが。つーか、コイツは今日俺のクラスに転校して来た海老原 恵那だ。その、えなりん? とかいうのはあくまでもアイドル活動してる時の呼ばれ方だろ? そいつもその呼び方は気に入って無さそうだし、止めてやれよ」

 半ば呆れ顔で浮かれている忍を一喝した。

 斗和のその言葉に、思わず恵那は泣きそうになってしまった。そんな風に言ってくれた人は初めてだったから。

「あ、そうですよね、すいません!! 俺、芸能人に会った事とか無かったからつい浮かれちゃって!!」
「ううん、その……知っててくれてありがとう。ただ、江橋くんの言う通り、その愛称はあまり好きじゃないから、普通に恵那って呼んでもらえると嬉しいな」
「ええ!? そそそ、そんな! 呼び捨てとか絶対無理っす!!」
「本人が良いって言ってんだから遠慮すんなよ。なあ、恵那」
「あ、う、うん。呼び捨てで全然構わないよ」

 恵那と呼んでくれと言ったのは自分で、それは忍に限らず勿論斗和にもそう呼んでもらえたらと口にしたものの、実際斗和に『恵那』と呼ばれると胸の奥が何だかむず痒いような、何とも言えない感覚に陥った恵那は一瞬反応が遅れつつも、斗和の言葉に相槌を打った。
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