不器用な総長は元アイドルの姫を一途に愛したい
「ねぇ、私の事は大丈夫だから、病院に行ってよ……」

 忍と河川敷で別れ、自宅のある方角へ向かって歩き出す二人。

 いつの間にか雨は止み、綺麗な夕焼け空が広がっている。

「ねぇってば、斗和、聞いてる?」

 話し掛けても無反応な彼に今一度名前を呼んで問い掛けてみると、

「お前、じーちゃんばーちゃんと住んでるだろ?」

 突然、そんな質問をされた恵那の頭上にはハテナマークか飛び交った。

「何、突然。まあ、そうだけど。っていうか、どうして知ってるの? 私、そんな事話した覚えないけど……」
「俺、今お前が住んでる家の隣に住んでんだよ。ジジイと一緒に」
「え!? そうなの!?」
「まあ、隣って言っても、田んぼ挟んでっから多少距離あるけどな。少し前にジジイが、隣の孫娘が暫くこっちに住む事になったとか言ってて、それがお前だって思い出したんだよ。苗字違うから初めは分からなかったけど」
「そうだったんだ。あ、苗字違うのはこっちの祖父母は母方だからだよ」
「ああ、それで。つー訳で、どうせ帰る方角同じだから送るって言ったんだよ」
「そっか、それなら納得。だけど、病院……」
「だから、それはいいって。お前の手当のおかげでいくらか楽になったから平気」
「そんな、私みたいな素人の手当じゃ駄目だよ……」
「俺の身体は俺が一番よく分かってるからいいんだよ。もう言うなよ?」
「……うん」

 心配しているから何度もしつこく病院へ行くように言ったものの本人は頑なにそれを拒否し、もう言わないように念を押してきたので恵那は渋々納得せざるを得なかった。
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