不器用な総長は元アイドルの姫を一途に愛したい
「何なの? こんな所に連れてきて……」

 斗和の行動が理解出来ない恵那が怪訝そうな表情を彼に向けると、

「悪かったよ」

 突然、謝罪の言葉を口にした斗和。

「昨日の発言は、俺が悪かった」
「な、何なの、急に……」
「お前、周りから距離置かれてんだろ?」
「そ、それは……」
「アイドルって言うくらいだから、てっきり周りからチヤホヤされてんだと思ってた。だから、ああ言ったんだ。悪かったよ」

 ただひたすら謝罪を繰り返す斗和を前に、何も言えない恵那。

 彼女は分かっているのだ。斗和が悪い訳じゃない事を。

「……なぁ、話したくねぇなら無理にとは言わねぇけど、お前、何があってこんな田舎に来たんだよ?」

 黙ったままの恵那に斗和はそう問い掛ける。

 絶対、何か苦しい理由があると斗和は考えていた。何も答えず俯いたままの彼女の表情が、とても悲しそうに見えたから。

「話せば楽になる事もあるだろ? 俺でよけりゃ話くらいは聞くけど?」

 そう言いながら斗和は手摺の方まで歩いて行くと、それを背にして座り込む。

 暫く立ち尽くしたままの恵那だったけれど何かを決心したのか顔を上げ、無言のまま斗和の横まで歩いて行き、

「…………話、聞いてくれる?」

 彼の横に腰を下ろすと、スマホを弄り始めていた斗和に、そう声を掛けた。

「ああ、話せよ」
「……うん……」

 話をする気になった恵那に視線を移した斗和は素っ気ない声でそう答えたもののきちんと話を聞く為にスマホをズボンのポケットにしまう。

「……私ね、表向きには体調不良で休養する為にこの町に来たって事になってるんだけど、本当は、違うの」
「違う? 体調不良が嘘って事?」
「うん。まあ、心の方は若干弱ってるけど……身体は別に何とも無いの」
「何でそんな嘘ついてこの町に来たんだよ?」
「……事務所の社長と色々あって……ほぼ、クビ宣告……的な? まあ私も、前々から芸能界自体を辞めたいと思ってたからそれは別に構わないんだけど、一応人気アイドルのセンターだし、急に引退とかってなるとグループのイメージダウンに繋がるからって、ひとまず休養するよう言われたの。ただ、私の両親は海外に住んでて親ともそんなに仲が良い訳じゃ無かったから、昔から良くしてくれてた母方の祖父母の家で暫くお世話になる事になって、この町に来たんだ」
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