不器用な総長は元アイドルの姫を一途に愛したい
 恵那が転校して来てから数週間が経つと、転校当初に比べ、恵那を『アイドル』として見なくなっていた。

 それというのも斗和と常に行動を共にしているのが原因だったりもする。

 家も席も隣同士、常に一緒に居る。

 その事から一部では『えなりんが江橋の彼女になった』なんて噂が飛び交う程だった。

 恵那からしてみれば、斗和と一緒に居るだけで『普通』の生活を送れる事が、何よりも嬉しかった。

 そして斗和もまた、恵那に自然な笑顔が増えていた事を嬉しく思い、付き合っているという噂が事実では無いものの噂になっても困らないという思いから、二人ともそれを否定する事も無く、常に一緒に居続けた。

 ただ斗和の方は、噂こそ気にしてはいないものの、恵那が自分の『彼女』なんて噂があらゆる場所に知れ渡ると危険が及ぶのでは無いかと心配する面があった。

 そこで、

「今日招集をかけたのは、お前たちに頼みがあるからだ」

 ある日曜日の午後、いつもならば金曜日の夜に行われている集会とは別に特別招集がかけられ、プリュ・フォールのメンバーが河原に集められていた。

「俺と恵那が行動を共にしてる事で、最近付き合ってるとかそういう噂をよく耳にすると思うが、別に俺らはそういう仲じゃねぇ。それはみんな知ってるな? けど、学校やクロスの連中なんかは噂を鵜呑みにするかもしれねぇ。そうなると恵那に危険が及ぶ可能性が十分にある。そこでだ、お前らには常に恵那を気にかけて欲しい。何か危険な状況に陥ったり、恵那に関して何か聞いたりしたら、すぐに教えて欲しいんだ。頼めるか?」

 リーダーである斗和の話を断るメンバーなど居る訳が無いのだが、これは強制では無いと斗和は付け足した。

 メンバーは勿論恵那がアイドルである事も知っているし、斗和にとって大切な存在である事も十分心得ている。

 それに、今はアイドルでは無いとしても、人気アイドルだった恵那を守れるとあれば、断る者など居るはず無いのだ。
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