不器用な総長は元アイドルの姫を一途に愛したい

「…………分かったよ、悪かった。もう、何もしない。けど、俺はやっぱりアイドルの恵那を諦められない！ それだけは、覚えておいて欲しい……」

　恵那の思いを汲み取った柊木は項垂れながらも納得すると、自分の素直な気持ちを伝えてその場から立ち去って行った。

「恵那、これで良かったのか？」
「うん。きっと分かってくれたと思うから、これでいいよ。斗和も忍くんも、みんなも、迷惑掛けてごめんなさい。そして、本当にありがとう」

　柊木が去り、これで良かったのかを尋ねた斗和に顔を向けると、この場に居た全員に頭を下げながら謝罪と感謝の言葉を口にした。

「お前が謝る事はないっつーの。まあ、これでひとまず危険な事は無くなっただろうから、安心出来るな」
「うん」

　問題が片付いた事で平穏な生活が出来ると恵那は喜び笑顔になる。

　そんな恵那を見た斗和たちプリュ・フォールの面々は彼女の笑顔に癒され、一丸となって彼女を守ってきて良かったと思えた瞬間だった。

　脅迫事件解決から一週間程が経ち、比較的穏やかな日常を送っていた恵那。

　ある日の放課後、いつものように斗和や忍と共に帰宅してくると、自宅前に一人の男が立っているのを見付けた。

「おい、その家に何か用なのか？」

　後ろ姿で誰だか分からない相手を警戒した斗和と忍は恵那を背に庇うように相手の男の前に立って声を掛けるとその声に反応して男が振り返る。

「速水(はやみ)さん……」

　男が言葉を発するより先に、恵那の方が口を開いた。

「恵那、知り合いか？」

　名前を呟いた事で恵那の知っている人間だと理解した斗和がそう尋ねると、

「……久しぶりだね、恵那。電話をしても出ないし、メッセージを送っても見て貰えないから、直接来てしまったよ」

　今度は恵那より先に相手の男が彼女に向かって話し掛けた。

　男の言葉に気まずそうな表情を浮かべた恵那が俯いて黙り込むと代わりに斗和が、「お前、コイツの何な訳？」と怪訝そうな表情を向けながら素っ気ない態度で相手に問う。

　警戒されていると分かった男はスーツの胸ポケットから名刺を一枚取り出して、斗和に自身の素性を明かした。

「ああ、自己紹介をしていなかったね。私は恵那のマネージャーの速水(はやみ) 慎也(しんや)です」

　尋ねて来た速水は恵那のマネージャーだったのだ。